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2017年の『芸人・活弁グランプリ』は堀川絵美がチャンピオン!

2017年10月14日(土) レポート

10月14日(土)、『京都国際映画祭』サイレント/クラシック映画部門の『芸人・活弁グランプリ』が大江能楽堂で行われました。

よしもと芸人が「活動写真弁士」に挑戦する京都国際映画祭恒例の人気企画。無声映画にセリフやナレーション、擬音をオリジナルでつけ、その出来栄えを競い合います。昨年はよしもと祇園花月で開催され、コロコロチキチキペッパーズが優勝しました。

MCにザ・プラン9のお~い!久馬を迎え、堀川絵美、桜 稲垣早希、ラニーノーズ、ダイノジが挑戦者として登場。活動弁士の山内菜々子さんも参戦しました。特別ゲストは山内さんの兄弟子であり、活動弁士の片岡一郎さんと、関西在住のサイレント映画伴奏者の鳥飼りょうさんです。

片岡さんは昨年も審査員で出演。その様子を客席で見ていたという鳥飼さんは「芸人さんはいつもとは違う視点で、バリエーションも豊かで面白かったです」と振り返りました。今年も片岡さんが審査し、鳥飼さんがピアノで伴奏を付けます。挑戦者のラニーノーズは二人ともギターを抱えて登場。そんな二人に「プロを差し置いてギターを使うとは、よほどすごいのでしょう」と片岡さん、期待を募らせます。堀川は「こういう舞台に立つと歌いたくなる」と『レ・ミゼラブル』の劇中歌を熱唱。稲垣は「ヱヴァンゲリヲンの次に活弁が好きです!!」と告白。ダイノジは出てきて早々、久馬とボケ合戦。そして活動弁士になって5年という山内さんに対しては、誰もが経験の違いを見せつけるのでは⁉とその手腕に期待しました。

1回戦は1930年代に製作された無声アニメ『0助漫遊記』です。0助と思しきキャラクターと妖怪が出てくる冒険活劇のようなお話。堀川は古めかしいナレーション風に声色を変え、0助のキャラクターを紹介。ラニーノーズはギターで自ら伴奏。ゲームのBGMを巧みに表現し、ギターテクニックで沸かす一幕も。稲垣は0助を『エヴァンゲリオン』に見立てて渾身の活弁を。得意分野だけに生き生きとしていました。ダイノジは「俺がマッチだ」と言い合ったり、物まねをしたりと、あの手この手で挑戦。やり終えて大谷が一言、「映像見たときはあっという間だと思っていましたが、こんなに長い作品だったとは」と思うほどの手ごたえを感じられなかった様子。最後は山内さん、「芸人さんのように愉快なことは何も言えないので、これが活弁だというノーマルパターンを」とオーソドックスな活弁を披露。分かりやすく、聞きやすく、さすがはプロと誰もが納得の活弁でした。

2回戦に入る前に片岡さんも活弁を披露していただきました。『まぼろし峠』という古い時代劇で、主演は市川歌右衛門さんです。片岡さんは「兄弟子の本気を見せる」とマイクなしで実演。時代劇にふさわしい重みのある声色で、本当に役者がしゃべっているような迫力で魅了しました。また、チャンバラの場面では、市川歌右衛門さんが北大路欣也さんのお父様であるという説明セリフもきっちりと。活弁だけで埋めることなく、時には無音の時間も作り、作品に深みを与えました。鳥飼さんのピアノの伴奏もドラマチックに展開。短時間ながらも活弁の真髄をたっぷりと楽しませていただきました。

そして改めて活弁のポイントを尋ねました。「沈黙を大事にすること」「すっきりと終わらせる」の2点を片岡さんはレクチャー。挑戦者は「沈黙はだめなことかと思って声で埋めていました!」と目から鱗の新発見に声を弾ませました。

2回戦はチャーリー・チェイスという方が主演の無声映画『キゲキ・カメラマン』。飛行機を撮影するため、車の補助席にカメラを構えていたカメラマン。ふとしたきっかけで運転席が飛んでいってしまい、車はカメラマンを乗せたまま暴走を始めます。交差点でトラックとギリギリですれ違ったり、貨物車にぶつかりそうになったりと、一歩タイミングを間違えると大惨事というスリル満点の映像です。片岡さんは「人間がこんな危険なことをやっているんだと思って観てください」と鑑賞のポイントも教えてくれました。

タイトルにもあるように、この無声映画は「喜劇」。コミカルに語るのもポイントです。まずは山内さんがお手本もかねて実演。鳥飼さんの弾けるようなピアノの音色に乗せて、カメラマンのスクープに掛ける思いを軽妙な口調で代弁。オチもはっきりと分かりやすく、感心する声も上がりました。

堀川は「ピアノなしでやります!」と周囲を驚かせます。自分でミュージカル風に歌いながら、カメラマンが淡路島に行くという設定に置き換え、淡路島の名産なども紹介しながら聞かせました。ラニーノーズは洲崎がギター演奏、山田が活弁を担当。洲崎がギターで暴走車のスリルを表現します。最後はコンビニの入店チャイムをギターで鳴らして「オチ」。稲垣は古風なナレーションで人気アニメの設定に置き換えて語ります。オチは全く違うキャラクターも登場させ、最後まで特技で勝負しました。ダイノジは大谷が「大地さんにはここぞというときに出てもらいます! 鳥飼さん、ピアノ伴奏も“ここだ!”ってところで変化つけてください!」と宣言。主演のチャーリー・チェイスさんが実はベテラン芸人の父親だったというオリジナルストーリーで展開するも、大地の出る幕は一切なし。あっという間にオチになり、大地の「ワシは⁉」という悲痛な叫びだけが響きました。

ここで決勝進出者の発表です。片岡さんが選んだファイナリストは堀川とラニーノーズでした。ですが、ちょっと待ったと大谷、「大地さんがまだ一度もやっていないので、エキシビジョンマッチではないですが、大地さんの見せ場をください!」と懇願し、決勝で挑戦するアニメ『愉快な連中』(1930年代製作)の活弁を急遽することに。たくさんのおばあさんを誘ってドライブに出るおじいさん、最後は海の底へ潜ってしまい…という、ちょっとシュールなアニメーションです。大地は声色を起用に変えながら、アドリブで進めます。初見とは思えないクオリティに会場から拍手が沸き起こりました。

片岡さんの選評では「男性の声が素敵で、その使い分けがよかった」という堀川と「ファンファーレをやってくれようとしていた」というラニーノーズ、決勝戦は堀川から始まりました。堀川は片岡さんや山内さんのアドバイスをうまく取り入れ、またバスガイドの手腕も存分に生かしながら、おじいさんをある大物俳優に見立てて活弁。オチは「海の藻屑」でした。「すっごい緊張した! 痩せたような気がする…」と堀川、やりきったという表情。対するラニーノーズは、最初は朗らかに、オチは「死のドライブ」という流れで展開。洲崎がテレビ番組の有名なBGMを奏でたり、効果音をつけたりと、ラニーノーズらしい演出でも引き込みました。

優勝者を決定する前に、今回の総評を片岡さんにお願いしました。堀川については「バスガイドという芸風は一歩引いた視点で作品を語ることができます。そうすると、作品がより分かりやすくなります。我々の世界では『客観説明』と呼んでいます」と、特技が活弁の技術であったことを評価。ラニーノーズは「自分で演奏するスタイルは、現役では山崎バニラさん一人だけです。その次を狙えるかもしれません」と活動弁士への道も照らしました。稲垣は「自分のキャラクターや芸風を分かった上でやっています。こういった方がうちの業界に増えるといいな」とまたまたラブコール⁉ 「アスカの格好でやってもいいんですか?」と久馬が訪ねると、「活動弁士は技術だけでなく、見た目も大事。衣装に凝るのは大事です」と太鼓判を押しました。ダイノジについては「良くも悪くも横綱相撲をやっていただきました。見事に格の違いを感じました!」と称賛。鳥飼さんのご感想もお聞きしました。「皆さん、かなり個性的で、自分の形に合わせてやられていたのがよかったです」と、昨年に引き続き、新鮮味を感じておられました。

優勝は片岡さんに発表していただきました。ドラムロールが響く中、呼び上げられた名前は堀川絵美! その瞬間、「やったー! うれしー!」と笛を取り出し、バスガイドギャグを披露。「作品を伝えるという点で頭一つ出ていました」と優勝のポイントを語る片岡さん。そして「皆さんそれぞれの個性で表現されていて、こういった企画は無声映画や弁士の業界にも刺激になるので、続けていただけると嬉しいです!」と今後の展開にも期待を寄せられました。

堀川は「今日まで生きてきて本当によかったです。この日のために生まれてきたんだなって感じています。ありがとうございます!」と大女優の完全コピーでスピーチ、お名前を明かすまで誰にも伝わらないというクオリティでしたが、最後まで会場を盛り上げました。

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