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「THE DOG OF FLANDERS」(劇場版フランダースの犬)監督の黒田昌郎氏とTVアニメ絵コンテの奥田誠治氏のトークセッション

2017年10月15日(日) レポート

国産アニメーションが上映されてから100年目に当たる今年。100年の歴史を経て、アニメーションは、現在の日本の映像文化において非常に大きな地位を占めるに至りました。京都国際映画祭の上映部門に新たに追加されたアニメーションカテゴリーでは、幅広い年齢の方が楽しめる長編・短編の上映と関連イベントを実施。10月15日(日)、よしもと祇園花月では、『THE DOG OF FLANDERS 劇場版 フランダースの犬』(1997年、黒田昌郎監督、制作:日本アニメーション制作)が上映されました。
上映後には、アニメ評論家・藤津亮太氏の進行で、監督の黒田昌郎氏とTVアニメ絵コンテの奥田誠治氏によるトークセッションがスタート。

『フランダースの犬』は、貧しい少年ネロと“フランダースの犬”パトラッシュの友情を描いた、ウェルツ原作の名作小説が原作となっている誰もが知るファミリー向けの名作。劇場版は、フジテレビ『世界名作劇場』枠で放映された人気テレビアニメーションシリーズ版と同じ、黒田昌郎監督、日本アニメーション制作によるもので、音楽・映像もテレビアニメ版とは刷新され、情景は当時のフランダース地方のものに近づけて描かれています。

TVシリーズから20年以上たって、劇場版が制作された経緯について、黒田監督は、「TVシリーズから何本かリメイクして劇場用につくりあげたいという構想がありました。偶然にも劇場公開されてから今日でちょうど20年になり、その日も雨だった記憶があります」と小雨が振るこの日の天気に重ね合わせ、感慨深そうに振り返ります。

また、たった72ページしかない原作を、週に1回のオンエアで計52本のストーリーにしなければならなかったTVシリーズの制作については苦労も多く、秘話も多く語られました。奥田さんは、「原作はありますが、ほぼオリジナル。いかに自分の世界観をいれていくか、黒田監督とわたしの真剣勝負でした」と語ります。ペットである犬に労働させなければならなかったフランダース地方の社会状況についてなど、原作に描かれている問題定義に関して掘り下げた話も取り上げられ、単に海外の日常性を描くだけではなく、ドラマを描く上の必然として日常性を描いていたというふたり共通の想いも語られました。

「修道女になったアロアの回想という形で話が進む劇場版の冒頭も含め、全体を回想形式でまとめた狙いは?」という質問に対しては、ネロとパトラッシュとアロアはいつも3人一緒だったのに、TV版のラストシーンでは、アロアだけ一人ぼっちにしてしまったということに、申し訳なかったという想いがありました」と黒田監督。とても暗い原作のストーリーをどう表現するかについては、「貧しい現状に不満を持たずに、パトラッシュとアロアと一緒にいるだけで幸せだった」というネロの気持ちを強調し、ただ悲しいだけの話にするのではなく、なるべく明るく描こうと務めたということです。

日本のアニメ界にとって大きな存在である『世界名作劇場』については、「あの時代は日本のアニメ界にとって一番いい時代だったなと思います。今は原作マンガの絵が決まっていることが多く、作家性がなかなか活かせない時代です」と奥田さん。黒田監督は「当時は、海外の日常生活を描いていれば喜んでもらえたのですが、それだけではなく、いかにこちらのメッセージを伝えていくかということを大事にしていました」と振り返ります。

そんな日本アニメ界黎明期のきらめきが詰まったが作品が、20年後劇場版になった『THE DOG OF FLANDERS 劇場版 フランダースの犬』。テレビ版とも原作とも違う話に作り上げられたこの作品には、制作者のさまざまな想いがつめこまれています。

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