ニュース全ニュース

活弁と演奏でコメディがよりイキイキと動き出す!「伝説のコメディエンヌ『麗しきハリウッドの大スターたち』」

2017年10月13日(金) レポート

10月13日(金)、大江能楽堂にて、サイレント/クラシック映画「伝説のコメディエンヌ『麗しきハリウッドの大スターたち』」が上映されました。こちらは毎年「映画のルーツ(原点)はコメディ映画にある」をテーマに上映される、サイレント/クラシック映画のプログラムのひとつ。
今年は映画初期に活躍したコメディエンヌ(女性)に焦点をあてた作品を特集。この回では、往年の女優、グロリア・スワンソン主演の『危険な娘』、ドロシー・デボア主演のロマンチック・コメディ『固唾を呑んで』をはじめ、『優雅な水遊び』『デブ嬢の海辺の恋人たち』の4作品が上映されました。

MCは清水圭、ゲストとして、作品の解説を担当する喜劇映画研究会の新野敏也さん、活動弁士の坂本頼光さん、演奏を担当する坂本真理さんが登壇。頼光さんは今日が初出演、しかも今日演じる作品がすべて初めてということで、「いや~もう、緊張してます。台本も全部自分で」とちょっぴりナイーブ。新野さんは「コメディエンヌから、のちのち大スターになる人の、デビューしたばかりの姿を楽しんでほしい」とコメントします。また真理さんはサイレント映画の演奏を始めた理由に触れ、「10年前に新野さんのイベントを見に行ったことがきっかけ。生演奏することで、自分も映画の世界に飛び込んでいくよう」とサイレント映画の魅力を紹介します。

まずは、『優雅な水遊び』からですが、「先ほどコメディエンヌ特集と言ってましたが、これにはコメディエンヌは出ません」と新野さん。清水は「詐欺じゃないですか!」と会場の笑いを誘います。新野さんは続けて「1920年代の水着を着ている女の子がでてきます。当時はボディラインが出ている水着が禁止。水着を着て外を歩き、公然わいせつで逮捕された女優もいました」と解説するも、「嬉しそうにしゃべりすぎ」と清水に割り込まれ、「これ以上しゃべったら放送禁止になっちゃう」とギリギリでストップ。要するに、3分間の映像で、水着姿のたくさんの女の子たちが水遊びをする、ニュースフィルムといった内容でした。
見終わった後、清水は真理さんに「(真理さんの)歌声が入りましたよね?」と歌声が音楽以上に女性らしい雰囲気を演出していたと絶賛。

続いては『デブ嬢の海辺の恋人たち』。新野さんは「デブ君というニックネームで人気を博した俳優、ロスコー・アーバックルが女装し、女優として演じているので、今回の特集に加えた」と解説。さらに「まったく無名の頃の(サイレント映画の大スター)ハロルド・ロイドが助演で出ています。実はこの作品で、ロイド自身が面白くなかったので、この会社をクビになったという話もある」というマニアックなエピソードも披露します。
上映が始まると、頼光さんが幾度となく「情緒不安定な富豪の娘」と表現したデブ嬢が大暴れ。ロイドが演じる男を含め、3人のプレイボーイと仲睦まじいかと思いきや、数秒後にはかんしゃくを起こして叩いたり蹴ったりするなど、暴力三昧、わがまま三昧。終始会場の笑いが絶えないドタバタコメディでした。
これには清水も上映後、「ハチャメチャ。なんでもありですね」と呆れ顔。それでも岩場で撮影したと思われる危険な海辺のシーンでは「体を張ってる場面は、やっぱり芸人、コメディアン根性を感じる」と賞賛していました。
 
3作目は『危険な娘』。「こちらは後に大女優になるグロリア・スワンソンが、デビュー間もない頃にコメディエンヌとして活躍していた作品」と新野さんの解説が入ります。
真理さんは「110年前のトレンディドラマ」と表現し、この作品は複数の男女が入り混じるラブコメディだと紹介。
また頼光さんは「タイトルは危険な娘ですが、娘が危険と言うより、作品全体が危険」「人物関係が混迷錯綜の極み」「スクリーンの横に人物相関図パネルを置いておいてほしい」と語り、作品がスタート。
開始1分で1組のカップルが別れ、新しい恋が始まるなど、紹介のとおりストーリーは急展開の連続。ボビーとヘレンをメインに描かれる、男女3組のラブコメディですが、頼光さんがいなければまず理解できないほど、めまぐるしく関係が入れ替わります。さらにクライマックスでは、これまでのストーリーを無にする行動に、もはや理解不能。頼光さんも「これが最大の謎」と語り、エンディング。
清水は「これだけ複雑な内容をよくまとめましたね」とコメント。また真理さんの演奏にも「また歌声でBGMを演出した場面がありましたね。個性的で面白かったです」と述べ、会場も二人に惜しみない大きな拍手を贈りました。

最後の作品は32分間の『固唾を呑んで』 。これは以前のイベントで、原題を直訳した『息を殺して』という別タイトルで上映したことがあると新野さん。しかし、つい最近調べたところ、「公開当時、日本活動写真株式会社(日活)が配給。『固唾を呑んで』というタイトルで上映していたことがわかった」と解説。今回上映するなかでは、これが唯一、公開当時のタイトルということです。
続けて「本当に誰も知らない女優、ドロシー・デボアが主演」と新野さん。「クラブ歌手として人気を博し、映画界へ転向した彼女は、サイレント映画時代に結婚して引退したんです」と、貴重なエピソードを披露しました。
作品の内容は、「先ほどのような複雑な人物関係はなく、ひと安心」と頼光さん。トラブル続きでお金のアテがなくなった家族のために、なにが起きてもめげずに奮闘する女性を、力強く、コミカルに演じます。そして高層ビルで大立ち回りするシーンでは、新野さんの「伝説になるほど派手な作品」とのコメントにうなづけるほど、激しいアクションシーンの連続。愉快ながら、最後までドキドキハラハラする展開に、客席もタイトルの通り「固唾を呑んで」見守りました。
 
全作品が終了後、清水は「お見事でした、素晴らしい」と絶賛。なかでも真理さんの演奏について「私も何年か(サイレントのMCを)やらせてもらってますが、真理さんの演奏は楽器だけでなく"ランラララ~ン♪"など随所に歌が加わるので楽しいですね」と賛辞を贈り、真理さんもニッコリ。
また、頼光さんは「歴史ある能舞台で演じられるのが素晴らしい。ただ片岡(一郎)さんには負けたくない思いで演じました」と感想を述べました。
最後に、新野さんが「活弁と演奏で、失われてしまった映画が息を吹き返してくれたのが素晴らしい。

  • Facebookでシェア
  • Twitterでシェア