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活弁なし・即興演奏だけでライブ感たっぷりに笑いを表現「最強のコメディ特集『喜劇映画アラカルト』」

2017年10月13日(金) レポート

10月13日(金)、大江能楽堂にて、「最強のコメディ特集『喜劇映画アラカルト』」が開催されました。「映画のルーツ(原点)はコメディ映画にある」をテーマに送る、毎年、好評のサイレント/クラシック映画特集。なかでもこちらは、活動弁士が出演せず、ふたりのミュージシャンによる即興演奏のみで喜劇映画の数々を上映する、異色のプログラムとなっています。

まずはMCの清水圭が、作品解説を行う新野敏也さん、ミュージシャンの谷川賢作さん、渡辺亮さんを呼び込み。新野さんによると、喜劇映画研究会が主宰して1992年に始まったイベント「夢の森にて」では、古典映画の普及、とくに若い人たちに見てもらうため、谷川さんとタッグを組んで伴奏入りの無声映画上映を行ってきました。基本的にはすべて即興で、「ガチンコのジャズ、ロック演奏が繰り広げられる」とのこと。その流れをくんで、今回も弁士がいない状態、音楽のみでサイレント映画にアプローチしていきます。

「最初、僕に声かけてくださったんですが、そこから僕も次々と声かけて、今ではのべ50人ぐらいのミュージシャンがこのイベントを体験している」と谷川さん。本来は事前に作曲しないなど厳しいルールがあるものの、「今日は臆病風に吹かれて、ちょっとだけ準備してきてしまいました(笑)」とルール違反(?)を告白し、観客を笑わせます。

渡辺さんは、一風変わった楽器を手に登場。ビリンバウというブラジルの民族楽器で、弓を使って作られています。40年ほど前に出会い、当時は手に入らなかったので自作したとのエピソードも披露。今日はどの映画のどんな場面で奏でられるのか、こちらも注目ポイントとなっています。

1本目の『ペギイのお手柄』(1924年)は、活動弁士の片岡一郎さんが、偶然、日本で見つけて入手したもの。アメリカの女優、ダイアナ・セラ・キャリーが5歳のときに主演しています。家に忍び込んだ泥棒を退治したり、小悪魔ぶりを発揮したり…いたずら好きなペギイの魅力を、ピアノやドラムを駆使して表情豊かに表現していく谷川さんと渡辺さん。上映後、新野さんは、主演のダイアナさんが、『キッド』の子役、ジャッキー・クーガンと人気を二分する存在だったことも紹介しました。

続いての『イカサマ野郎』(1928年)は、禁酒法時代を舞台にしたレアな作品。ヒロインが、20年代に欧米で人気を呼んだ「フラッパー」と呼ばれるファッションスタイルだったりと、オシャレな雰囲気も漂う一作です。ひとりの男の恋路に、油田の株券をめぐる思惑がからんで、物語は大混乱。アクションシーンでは迫力満点の打楽器がスパイスをきかせるなど、ここでもふたりの即興演奏が映えました。

3本目の『モロッコ製の女給』(1925年)は、「ローワン・アトキンソンらもかなり影響を受けている作品。主演はイタリアの芸人一家に生まれたコメディ俳優です」(新野さん)。こちらは生演奏ではなく、19年前のイベントで撮影された映像での上映に。ひとりの奏者だけ内容を知っているものの、ほかの3人はまったく何も知らないという状態で、なおかつ初顔合わせでのセッションというまさにガチンコバトルだったそうです。当時のライブ感がそのまま伝わる映像に、時折、谷川さんらが新たな音をプラス。それらが見事にあいまった音楽世界に、大きな拍手が送られました。

今回、唯一のイタリア映画『ポリドール VS 日本人』(1917年)には、タイトル通り日本人がライバル役で出演。かつてフェデリコ・フェリーニ監督が見て、非常に強い思い入れを抱いていたという作品でもあります。主人公のポリドールが日本人と張り合う姿がおもしろおかしく描かれ、時に激しく、時に軽やかに奏でられる音楽が、ドタバタ劇を盛り上げていきます。ここで、渡辺さんのビリンバウがやっと登場! 上映後、清水のリクエストで再度、少しだけ演奏するひと幕もありました。

最後は『最狂自動車レース』(1924年)。新野さんは、大ヒット映画『マッド・マックス 怒りのデス・ロード』でジョージ・ミラー監督が「参考にしていたのでは?」という推理も披露。キテレツな車が次から次へと飛び出し、コミカルかつスリリングなレースが展開されます。もちろん、音楽が臨場感をさらに高め、笑いと興奮のクライマックスへ! 上映後は、客席からひときわ大きな拍手が起こっていました。

全5本を通じて、ひと味違うサイレント映画の楽しみ方を提案してくれた同プログラム。出演者も観客が一体となって盛り上がる、熱いひとときとなりました。

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