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「大学紛争」を描く実験的ドキュメンタリー映画で綴られた“言葉”の力に迫る!-映画『共同性の地平を求めて』トークイベント

2017年10月14日(土) レポート

10月14日、アーティストの能勢伊勢雄さんが監督・撮影を手がけたドキュメンタリー映画『共同性の地平を求めて –荻原勝ドキュメント 68/75-』が元・立誠小学校で上映されました。併せて同作品のテーマを深く掘り下げるトークイベント「『人間の最後の救い』とは何か?」も開催され、能勢さんと作品に登場した荻原勝さん、本映画祭のアートプランナー・おかけんたが登壇しました。
映像作家、写真家として多くの作品を発表し、映画、音楽、美術などさまざまなジャンルを股にかけた多彩な活動で、アートカルチャーの“生き字引”とも呼ばれる能勢さん。今年70歳を迎えた彼が20歳のころに制作した作品が『共同性の地平を求めて』です。テーマは1960年代末、日本中を吹き荒れた「大学紛争」。作品の主人公である荻原さんは、岡山大学で教鞭をとるドイツ語講師でしたが、紛争のなかで学生の側に立つ“造反教官”と呼ばれ、後に自ら大学を去ることとなりました。そんな荻原さんの姿を追ったドキュメンタリーですが、独特なのはその表現手法。学生たちと警察との激しい衝突、荻原さんの家庭生活などさまざまな映像が映し出されるなか、ほぼ全編にモノローグのような荻原さんのインタビュー音声が流れる、極めて実験的な表現方法がとられています。

トークイベントでは、このユニークな手法に驚くおかが「語りなのか、ナレーションなのか、はたまたインタビューなのか?荻原さんの言葉をひたすら流すことにしたのは、どんな意図で?」とさっそく能勢さんに質問しました。これを受け、能勢さんが挙げたのは理由のひとつは“制作費”の問題。「当時、テレビ局にあるようなビデオは1000万円ほどしました。僕にはお金が無かったので、荻原先生の話をひたすらカセットテープに録り、そのなかからいくつかの話をピックアップして画を重ねていきました」と語る能勢さん。ちなみに収録したカセットテープの音声は「120分テープで50本は下らない」ほど膨大な量になったそうです。

しかし、能勢さんが荻原さんの“言葉”にこだわったわけはそれだけではありません。能勢さんは“自分の心に向けて語り始めたとき、本当のことが顕れてしまう”という詩人・リルケの言葉を引用。「荻原先生にカメラやマイクを向けて話をしてもらうなかで、絶対に魂が顕れてくると思っていた」と荻原さんがまさに自らの心に向けて語る瞬間を待ちながら、“荻原勝”という人物の本質に迫ろうとしたといいます。
しかし、学生闘争の渦中で「映画を作る暗黙の了解」が壊れていたため、まず、「何からでもかまいませんから話してください」と撮影をはじめました。荻原さんは「何をしゃべったらいいかわからない」と戸惑ったそうですが、能勢さんを惹きつけた荻原さんの“言葉”はおかをも魅了するほど。「“言葉”を意味するヘブライ語は、もともと“進む”という意味。だから、(言葉を発することで)前進しているということなんですよ」など心を揺り動かされる話をサラリと繰り出す荻原さんに、おかは「目が覚めた思いです!」と感激し、能勢さんは「ね、こういうことを普通に話される先生なんですよ」と改めて荻原さんに感銘を受けたようでした。

さらに、「この映画の最も象徴的な場面」と能勢さんが語る、荻原さんが大学閉鎖の最中に行った“120分の沈黙の授業”の貴重な話や、能勢さん曰く「“社会の中で生かされている教師”という立場を貫き通した」荻原さんの生き方などに話は及び、ついにトークは今回のテーマ「『人間の最後の救い』とは何か?」に迫ります。能勢さんは、たとえば、相手を気遣う『大丈夫?』『元気ですか?』といったようなごく平凡なやりとりにこそ人間を救う何かがあるのでないかといい、「どんな状況になろうが、人間は人に声をかけてしまう。どんなにひどい状態で孤立しようが、貧困に喘ごうが、言葉を発せることが神秘的。それが最後の救いだと思う」と“言葉”の力を強調してイベントを締めくくりました。

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